輝く肌への道:3、薔薇色の夢

エッセイ

掲載雑誌:婦人公論 2006年5/7号より

輝く肌への道 −水の惑星・ご馳走タイム・薔薇色の夢−

3、薔薇色の夢

彼女は真夜中に目を覚ました。恐い夢を見たのだ。夢の中で追いかけられていた。追手はすぐそこまで来ている。彼女は全速力で走る。前は断崖絶壁。もう飛び降りるしかない、というところで、目が覚めた。

寝汗をぐっしょり掻いていた。おまけに夢の中で泣いたらしい。頬が濡れている。

彼女はパウダールームに行く。鏡の中にはちょっぴり疲れた顔。実際に走った後のようだ。夢で良かったと思う。

こういう時の特効薬を彼女は持っている。肌に潤いを与えるマスクだ。彼女はさっと顔を洗い、化粧水で肌を整え、マスクを貼り付ける。白い仮面を付けたみたいだ。ちょっぴり滑稽な顔。彼女はクスッと笑う。

そう、女は魔法が使えた方がいい。たとえば美容液、たとえばパック剤、たとえば美肌マスク、etc。

悪い夢を良い夢に変えるなんて、難しいことじゃないわ、と彼女は呟く。この仮面さえあれば、悪夢も退治できる。

深夜の時を刻む時計の音さえ、軽やかなものに変わった。コチコチ。十五分たったらまた夢の中だ。今度は薔薇色の夢を見よう。

阿木燿子