エッセイ
掲載雑誌:浜銀総合研究所 「Best Partner」2007年5月号より
風を感じる街
故郷に錦を飾るというと、少々古くさいニュアンスがあるが私は先日、これに近い感覚を味わった。横須賀市の市制百周年記念の詞を書かせて頂いたのだ。
その記念式典で、杉山清貴さんや少年少女合唱団が、私達の作品を歌って下さり、とても名誉に感じた。
もともと私は横須賀市とは縁が深い。私自身は住んだことは無いが、子育てを終えた両親が晩年、横須賀に引っ越したので、私にとれば実家のある街であり、故郷みたいなものである。
おまけに横須賀は、主人と私に世に出るチャンスを与えてくれた。私達がプロの作曲家、作詞家になれたのは、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」という曲のお陰である。加えてこの曲がきっかけで、「横須賀ストーリー」を書かせて頂いたので、二重に恩恵を蒙っている。
この二曲がなかったら、現在の私達は居ない。横須賀は私達の産みの親であるばかりか、見守り育ててくれた有り難い存在だ。
そんな横須賀市からの依頼だったので、私達は二つ返事で曲を書かせて頂く事にした。多少なりとも恩返しができたら、と思ったのである。
しかし実際に取りかかってみると、筆がスムーズに進まない。思い入れがあり過ぎて、かえって迷うのである。テーマを選ぶにしても、あーでもない、こーでもない、とつい考え込んでしまう。
結局、キイワードとして使ったのは“風”。つねづね私は横須賀に限らず、神奈川県には風という言葉が似合うと思っていた。それも海から吹いてくる風。
私の勝手なイメージだが潮風は“自由”の香りがする。神奈川県は海に隣接している地域が多い。京浜工業地域の川崎、鶴見から始まって横浜はもちろん、葉山、逗子、鎌倉、横須賀、三浦海岸と様々な表情を持つ海がすぐ身近にある。
もともと日本は島国なので、当り前と言えばそうなのだが、海は異国に通じている。だから海から吹いてくる風は、見知らぬ国に対する憧れや興味を駆り立ててくれる。
横須賀市の市制百周年のために書いた曲のタイトルは「風を感じる街 ヨコスカ」。
風通しの良い街であって欲しい。みんなが自由に呼吸できる環境であって欲しい。そして、いつも人々の心に風が吹いていて欲しい。
そんな願いを込めて書いたつもりだ。
郷土愛といのは不思議なものだ。他県の人に悪口を言われると突如、反発してその時に改めて自分の来し方を再認識する。多分、それは人々のアイデンティテイに深く組み込まれているものだからなのだろう。
自由な風をいつも感じていたい。
東京に移り住んで三十年以上経つが、神奈川県出身だという事を、私は誇りに思っている。
阿木燿子
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